MRの歴史と役割の変遷

スキル・知識


MRとは、医薬情報担当者の略称で、製薬企業の社員として医師や薬剤師などの医療従事者に対して
医薬品の情報提供や学術的な交流を行う専門職です。MRは、医療現場における医薬品の適正使用や
安全性の確保に貢献するとともに、製薬企業の研究開発やマーケティングにも重要な役割を果たし
ています。では、MRはいつから存在し、どのように発展してきたのでしょうか。ここでは、MRの
歴史を時代ごとに振り返りながら、その変遷と意義について紹介します。

明治時代~大正時代:欧州型の学術的プロパガンダの始まり

MRの歴史は、明治時代の末期にまで遡ります。当時、日本では海外からの医薬品の輸入が盛んにな
り、その中でもドイツ製の医薬品が高い評価を得ていました。しかし、日本の医師たちは、ドイツ
語の製品説明書を読むことができず、医薬品の特徴や効果を十分に理解できないという問題があり
ました。そこで、ドイツの製薬企業は、日本に学術部を設置し、自社の医薬品を日本の医師たちに
紹介するために、医学的知識とドイツ語の能力を持った人材を採用しました。この人材が、日本で
最初のMRとされる二宮昌平でした。
二宮は、ドイツ人の医師であるエベリングとともに、主要都市の大学や医師会を回り、講演会を開
催しました。二宮は、医師と対等に渡り合えるだけの知識を持ち、セールス行為を一切行わず、自
社製品の有効性や安全性を科学的に説明しました。これは、欧州で行われていた学術的プロパガン
ダと呼ばれる手法で、医師の信頼を得るとともに、医薬品の需要を高める効果がありました。二宮
は、自身の知識を向上させるために、何度も渡欧し、最新の医学情報を日本に持ち帰りました。こ
のように、二宮は、医師と対話することで医薬品の情報提供を行うという、MRの原型を築いたと言
えます。

昭和時代:戦争と経済発展の影響でMRの姿が変化

しかし、二宮の始めた欧州型の学術的プロパガンダは、第一次世界大戦の影響で一時的に中断され
ました。戦争によって、ドイツ製の医薬品の輸入が困難になり、日本の製薬企業が国産の医薬品を
開発するようになりました。このとき、日本の製薬企業は、MRの役割を変える必要に迫られまし
た。それは、医師と対話するだけでなく、医薬品の販売も行うということでした。日本の医療制度
は、当時、医師が自由に医薬品を販売できる仕組みでした。そのため、MRは、医師に医薬品の情報
を提供するだけでなく、医師に医薬品を買ってもらうことも目的としました。このように、MRは、
学術的な情報提供者から、販売促進の担い手へと変化していきました。
戦後、日本は高度経済成長を遂げ、医療水準も向上しました。このとき、MRは、医師のニーズに応
えるために、より専門的な知識や技能を身につける必要がありました。また、医薬品の種類や量も
増え、医薬品の適正使用や安全性の確保も重要な課題となりました。そこで、MRの資質向上や教育
研修の必要性が高まり、MRの資格制度の導入が議論されるようになりました。1979年(昭和54
年)には、国会でMR資格制度の導入が提案され、1980年(昭和55年)には、日本製薬工業協会が
MRの教育研修要綱を作成しました。しかし、国家資格ではなく、欧州諸国の例にならって、公正な
民間機関によるMRの資格制度を導入すべきだという意見が強まりました。

平成時代~令和時代:MR認定制度の導入と改革

1997年(平成9年)、財団法人医薬情報担当者教育センター(MR教育センター)が設立され、MR
認定制度が導入されました。MR認定制度とは、MRの資質向上や教育研修の充実を図るために、MR
教育センターが実施する試験に合格した者に対して、MR認定証を交付する制度です。MR認定試験
は、医薬品の基礎知識や法規制、医療情報の提供方法などを問うもので、MRとして必要な知識や技
能を評価します。MR認定証は、5年間有効で、その後は認定更新のために補完教育を受ける必要が
あります。MR認定制度は、MRの専門性や信頼性を高めるとともに、医療従事者や患者の利益にも
資するとして、業界や社会から高い評価を得ています。

MR認定制度は、その後も時代の変化に対応して改革されてきました。2005年(平成17年)には、
医薬品の適正使用の促進に関する法律(適正使用法)が施行され、MRの活動にも新たな規制が設け
られました。適正使用法では、MRは、医療従事者に対して、医薬品の有効性や安全性だけでなく、
副作用や禁忌などのリスクについても正確に伝えることが義務付けられました。また、MRは、医療
従事者に対して、金品や接待などの利益供与を行ってはならないとされました。これらの規制は、
MRの活動をより公正かつ透明にすることを目的としています。
2016年(平成28年)には、MR認定試験の内容が大幅に改定されました。改定後のMR認定試験で
は、医薬品の基礎知識や法規制だけでなく、医療の現状や動向、医療情報の提供技術やコミュニケ
ーション能力なども問われるようになりました。また、試験の難易度も高められ、合格率も低下し
ました。これは、MRの専門性や質の向上を図るとともに、医療従事者や患者のニーズに応えること
を目的としています。
2020年(令和2年)には、新型コロナウイルスの感染拡大によって、MRの活動にも大きな影響が及
びました。医療機関では、感染防止のために、MRの訪問を制限したり、オンラインでの対応を求め
たりする場合が多くなりました。MRは、この状況に対応するために、オンラインでの医療情報の提
供や学術的な交流を行うスキルやツールを身につける必要がありました。また、MRは、医療従事者
の負担や不安を軽減するために、感染症に関する最新の情報や対策を提供することも重要な役割と
なりました。

まとめ

以上のように、MRは、明治時代から現代まで、時代の変化に応じてその姿を変えてきました。MR
は、医薬品の情報提供や学術的な交流を通じて、医療現場における医薬品の適正使用や安全性の確
保に貢献してきました。また、MRは、製薬企業の研究開発やマーケティングにも重要な役割を果た
してきました。MRは、MR認定制度や適正使用法などの制度や規制によって、その専門性や信頼性
を高めてきました。MRは、今後も、医療従事者や患者のニーズに応えるために、より高い知識や技
能を求められるでしょう。MRは、医療と製薬の架け橋として、日本の医療の発展に貢献していくこ
とでしょう。

最後までお読みいただいてありがとうございました。
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