2023年度、アステラス製薬は予期せぬ挑戦に直面しました。研究開発中の遺伝子治療プログラム「AT808」に関する無形資産の減損損失の計上を余儀なくされ、その結果、同社は純利益予想を大幅に下方修正することを発表しました。これは、前期比でなんと97%の減少を意味します。具体的には、親会社帰属純利益が前期比で550億円減の30億円になる見込みです。
この下方修正の主な要因と今後について深堀していきます。
アステラス製薬の2023年度予想下方修正の背景
アステラス製薬は、2023年度の財務予想を大幅に下方修正しました。この修正は、主に研究開発中の遺伝子治療プログラム「AT808」の無形資産の減損損失と、腎性貧血治療薬「エベレンゾ」の販売状況の見直しによるものです。
AT808プログラムの減損損失
アステラス製薬は、希少疾患であるフリードライヒ運動失調症の治療を目指す遺伝子治療プログラム「AT808」に関して、約400億円の無形資産の減損損失を計上しました。これは、資産価値の見直しの結果として発表されています。
エベレンゾの販売見直し
日本や欧州で販売中のエベレンゾについて、各国の販売状況を考慮した将来計画の見直しを行った結果、約160億円の無形資産の減損損失を計上することになりました。
その他の費用
さらに、抗Claudin18.2モノクローナル抗体・ゾルベツキシマブに関する開発計画の更新と為替レートの変動を受け、約80億円の公正価値変動額を「その他の費用」として計上しました。
修正後の予想
これらの影響を受けて、アステラス製薬は2023年度の通期予想を下方修正しました。修正後の予想では、営業利益は直近の予想から700億円減の130億円(前年度実績比90.2%減)、親会社帰属純利益は550億円減の30億円(97.0%減)となる見込みです。一方で、売上収益は直近の予想を据え置き1兆5620億円(2.9%増)としています。
製薬業界の変革とアステラス製薬の挑戦
製薬業界を襲う逆風
製薬業界は、超高齢化社会の到来と医療費増加という二重の圧力に直面しています。新薬開発のコストは増大し続けており、日本の医薬品市場は成長が鈍化しています。アステラス製薬もこの影響を受け、2023年度の予想を下方修正せざるを得ない状況にありました。
デジタル技術の導入
デジタル技術の導入は、製薬業界に新たな可能性をもたらしています。AIやビッグデータの活用により、新薬開発の期間短縮やコスト削減が進んでいます。アステラス製薬も、デジタル技術を駆使した研究室の再構築など、DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務効率化を進めています。
後発医薬品の普及
後発医薬品の使用率は、2023年3月時点で80%に達しています。アステラス製薬は、この後発医薬品の普及による市場の変化に対応するため、新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいます。
海外市場への展開
国内市場の伸び悩みを背景に、アステラス製薬を含む大手製薬企業は海外での事業拡大に動いています。アステラス製薬は、特にアジア市場でのプレゼンスを強化し、新たな成長機会を模索しています。
アステラス製薬の未来への道筋
2023年度の挑戦
アステラス製薬は、2023年度において、減損損失の計上という形で大きな挑戦に直面しました。特に、腎性貧血治療薬エベレンゾに関する無形資産の減損損失約450億円、感音難聴患者を対象としたFX-322の開発中止に伴う86億円の減損損失、そして多能性幹細胞由来の他家T細胞医療製品の共同開発・商業化に関する契約解約に伴う46億円の減損損失が発表されました。
長期的な展望
アステラス製薬は、これらの短期的な逆風にも関わらず、長期的な展望においては楽観的です。2025年度に向けては、売上は年平均8%の力強い成長を予測しており、また、Focus Areaアプローチから生まれる各種プロジェクトが、2030年度に向けた成長ドライバーとなることを目指しています。
新たな成長戦略
アステラス製薬は、新たな成長戦略として、眼科領域に特化する米スタートアップのアイベリック・バイオの買収を行いました。この買収は、2027年ごろに特許切れを迎える主力の前立腺がん治療薬イクスタンジの売上高減少に対応するためのものです。アイベリックが有する候補品のうち、地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性に対して開発してきたACPという核酸医薬は、米国で承認申請実施済みであり、FDAの承認が期待されています。
まとめ
アステラス製薬の2023年度の挑戦は、業界の変化を象徴しています。減損損失による予想下方修正にも関わらず、同社は長期的な成長戦略を確立。新薬開発と戦略的買収により、将来の発展を目指しています。デジタル化の進展と市場の変動が、今後の製薬業界の動向を左右するでしょう。アステラス製薬は、これらの課題を乗り越え、新たな成長機会を追求していくことが期待されます。
無形資産の減損損失 条件付対価に関わる公正価値変動額の計上 通期業績予想の修正について
https://www.astellas.com/jp/news/29096
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