製薬企業のリストラは本当に必要なのか?その背景と影響を探る

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製薬業界は、近年、リストラのニュースが絶えません。外資系や内資の大手・準大手だけでなく、中堅企業も人員削減に踏み切っています。その背景には、国内市場の停滞や薬価制度の改革、新型コロナウイルス感染症の影響など、さまざまな要因があります。しかし、リストラは本当に製薬企業の経営を改善するのでしょうか?また、リストラはどのような影響を業界や社会に与えるのでしょうか?この記事では、製薬企業のリストラの効果とその実態について、最新の事例やデータをもとに分析していきます。

 製薬企業のリストラ事例

まず、近年の製薬企業のリストラ事例を見てみましょう。以下は、2020年から2021年にかけて、国内外の製薬企業が発表したリストラの一部です。

企業名早期退職人数実施年退職月条件備考
参天製薬非公開202312月末2023年12月31日時点で50歳以上かつ勤続年数3年以上の社員・定年後再雇用社員※但し一部適用除外部署の設定あり割り増し有
アステラス製薬非公開20232024/3末24年3月末で満5年以上の国内営業に従事している社員割り増し有
大正HD非公開2023非公開非公開 
塩野義製薬約200人202310月末2024年3月31日時点で50歳以上かつ勤続年数5年以上の社員(一部の幹部職などは除く) 
ブリストル非公開20236月末6月30日時点で48歳以上かつ勤続年数3年以上の営業部門に所属する社員(本社勤務含む) 
アムジェン非公開20236月末営業組織のうち骨粗鬆症治療薬「イベニティ」を扱うスペシャリティケア事業本部 
バイエル約500名 (管理職100名、一般職400名)202310月末35歳から65歳までの医療用医薬品部門(なお合否あり)割り増し退職金 0.6年~3.5年分
中外製薬約370名20236月末23年12月末時点で満40歳以上の正社員およびシニア社員。 
ヤンセンファーマ非公開202212月末非公開ポジションクローズ 割り増しなし
ファイザー約470人202212月末35歳以上の営業部門に所属する社員(35歳~64歳)割り増し退職金 最大4.5年分
大幸薬品約30名20227月末40歳以上59歳未満の正社員と無期雇用社員 
ノバルティス人数制限を設けない20217月末勤続5年以上の全営業・マーケティング・メディカル部門の社員 (年齢制限なし) 
ヴィアトリス約500人20216月末コマーシャル部門(営業部門)に所属する全社員 
アステラス製薬約650人20219月末2021年9月30日時点で45歳以上かつ勤続年数5年以上の社員 (一部の幹部職などは除く) 
アストラゼネカ50名20213月末日勤続3年以上かつ45歳以上のMR割り増し退職金 最大36カ月分
武田薬品工業非公開2021非公開42歳以上の管理部門(非営業) 
エーザイ150名20213月末平成30年4月1日現在、在籍する45歳以上かつ勤続5年以上の社員3年連続 早期退職の最終年
イーライ・リリー全営業の1割(150人超)202012月末35歳以上の営業部門 
エーザイ148名20203月末平成30年4月1日現在、在籍する45歳以上かつ勤続5年以上の社員3年連続 早期退職の2年目
ノバルティス非開示2020非開示オンコロジー部門 
武田薬品工業非公開202011月末30歳以上/勤続年数が3年以上(定年後再雇用者含む)の国内ビジネス部門 (ジャパン ファーマ ビジネス ユニット、日本オンコロジー事業部)所属社員 

これらのリストラの背景には、製薬企業が直面しているさまざまな課題があります。次の項では、それらの課題について詳しく見ていきましょう。

 製薬企業のリストラの背景

製薬企業がリストラに踏み切る主な理由は、以下の3つに分けられます。

– 国内市場の停滞

– 薬価制度の改革

– 新型コロナウイルス感染症の影響

国内市場の停滞

製薬企業のリストラの背景の一つとして、国内市場の停滞が挙げられます。日本の医療用医薬品市場は、高齢化や医療費抑制の影響で、成長が鈍化しています。2020年度の医療用医薬品市場規模は、前年度比0.9%減の10兆円となりました。また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、医療機関の受診者数や診療行為数が減少し、医薬品の需要も低下しました。

国内市場の停滞に対応するために、製薬企業は海外市場への進出や新薬開発に力を入れています。しかし、海外市場では競争が激化しており、新薬開発には多額の投資と時間がかかります。そのため、製薬企業は、国内の営業体制を見直し、人員やコストを削減する必要があると判断しています。

薬価制度の改革

製薬企業のリストラの背景のもう一つとして、薬価制度の改革が挙げられます。日本の医療用医薬品の価格は、政府が定める薬価に基づいて決まります。しかし、医療費の抑制のために、政府は薬価の引き下げを続けています。特に、2020年4月の薬価制度改革では、以下のような新ルールが導入されました 。

– 新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象が大きく減少し、新薬の薬価が引き下げられた。

– 長期収載品の薬価を中長期的に後発品と同じか近い水準まで引き下げる新ルールが導入された。

– 薬価の改定を2年ごとから毎年に変更し、市場動向に応じて薬価を見直す仕組みが始まった。

これらの改革により、製薬企業の収益性は大きく低下しました。特に、新薬の薬価が下がることは、新薬開発のインセンティブを減少させるという懸念があります。また、毎年の薬価改定は、製薬企業の経営計画や予測を困難にするという問題もあります。そのため、製薬企業は、薬価制度の改革に対応するために、人員やコストを削減する必要があると判断しています。

 新型コロナウイルス感染症の影響

製薬企業のリストラの背景のもう一つとして、新型コロナウイルス感染症の影響が挙げられます。

新型コロナウイルス感染症は、世界的なパンデミックとなり、医療や社会に大きな影響を与えました。製薬業界にとっても、新型コロナウイルス感染症は、チャンスと課題の両面を持っています。

チャンスとしては、新型コロナウイルス感染症の予防や治療に関する医薬品やワクチンの開発や販売があります。2020年から2021年にかけて、世界中の製薬企業や研究機関は、新型コロナウイルス感染症に対抗するために、研究開発に力を入れました。その結果、多くの医薬品やワクチンが承認され、市場に投入されました。例えば、ファイザーとモデルナのmRNAワクチンは、高い有効性と安全性を示し、世界中で大量に接種されました。また、レムデシビルやデキサメタゾンなどの医薬品も、重症化や死亡率の低下に効果があるとされ、使用されました。これらの医薬品やワクチンは、製薬企業にとって、収益やブランドイメージの向上につながりました。

課題としては、新型コロナウイルス感染症の拡大による業務や供給の混乱があります。新型コロナウイルス感染症の影響で、製薬企業の従業員や協力企業の感染や休業が発生し、研究開発や生産や物流に支障が出ました。特に、臨床試験は、被験者の募集や訪問やモニタリングが困難になり、多くの試験が中断や延期や中止になりました。また、医薬品の供給も、原材料や製品の輸送や通関が遅れたり、需要の変動に対応できなかったりすることで、不足や過剰が発生しました。これらの業務や供給の混乱は、製薬企業にとって、コストの増加や収益の減少につながりました。

以上のように、新型コロナウイルス感染症は、製薬企業にとって、国内市場の停滞や薬価制度の改革とともに、リストラの背景となる要因です。しかし、リストラは本当に製薬企業の経営を改善するのでしょうか?また、リストラはどのような影響を業界や社会に与えるのでしょうか?次の項では、製薬企業のリストラの効果とその実態について、最新の事例やデータをもとに分析していきます。

製薬企業のリストラの効果とその実態

利益率改善及び生産性向上

– 中外製薬は、2022年に374人の早期退職者を募り、MR(医薬情報担当者)数を1050人まで減らしました。同社は新型コロナウイルス感染症治療薬「ロナプリーブ」の販売で大幅な増収を達成し、MR1人あたりの売上高は業界トップになりました。同社はスペシャリティ領域に事業の中心をシフトしていくことから、将来的な生産性を見据えて人員削減を行ったと言えます。

中外製薬株式会社|創造で、想像を超える。 (chugai-pharm.co.jp)

– アステラス製薬は、2021年に650人、2023年に500人の早期退職者を募り、MR数は1700人から800人規模まで減らしました。同社は医師と直接会わない情報提供手段が広がっているとし、営業組織を大胆に変革していく姿勢を強調しました。同社はMR1人あたりの生産性を2.3億円から3.5億円程度に上げることができました。

アステラスホームページ | アステラス製薬 (astellas.com)

製薬企業のリストラは、人員やコストの削減によって、経営の効率化や収益性の向上を目指しています。しかし、リストラには、以下のような問題やリスクもあります。

– 人材の流出やモチベーションの低下

– 研究開発や営業の能力の低下

– 社会的な責任や信頼の損失

人材の流出やモチベーションの低下

製薬企業のリストラは、人員の削減によって、人材の流出やモチベーションの低下を招く可能性があります。製薬企業の人材は、高度な専門知識や経験を持ち、医薬品の開発や販売に不可欠な存在です。しかし、リストラによって、優秀な人材が退職したり、競合他社に移籍したりすることで、製薬企業の人的資源が失われることがあります。また、リストラによって、残留する人材のモチベーションや士気が低下することもあります。リストラは、人材にとって、不安や不満や不信感を生むことがあります。特に、リストラの基準やプロセスが不透明や不公平だと感じられる場合は、人材の不満や不信感が高まります。また、リストラによって、人材の負担やストレスが増加することもあります。リストラは、人材の仕事量や責任が増えることがあります。特に、研究開発や営業などのフロントラインの人材は、リストラの影響を直接受けることがあります。これらの人材の流出やモチベーションの低下は、製薬企業の業績や競争力に悪影響を与えることがあります。

研究開発や営業の能力の低下

製薬企業のリストラは、研究開発や営業の能力の低下を招く可能性があります。製薬企業の研究開発や営業は、医薬品の開発や販売において、最も重要な機能です。しかし、リストラによって、研究開発や営業の人員や予算が削減されることで、その能力が低下することがあります。例えば、研究開発の能力の低下は、以下のような問題を引き起こすことがあります。

– 新薬のパイプラインの減少や遅延

– 新薬の品質や安全性の低下

– 新薬の差別化や革新性の低下

また、営業の能力の低下は、以下のような問題を引き起こすことがあります。

– 医療機関や患者との関係の悪化

– 医薬品の販売や市場シェアの減少

– 医薬品の価値や効果の伝達の困難

これらの研究開発や営業の能力の低下は、製薬企業の競争力や成長性に悪影響を与えることがあります。特に、新型コロナウイルス感染症の終息後には、医薬品の需要や市場環境が大きく変化すると予想されます。そのような状況に対応するためには、製薬企業は、研究開発や営業の能力を高めることが必要です。しかし、リストラによって、その能力が低下することで、製薬企業は、将来の機会や挑戦に対応できなくなる可能性があります。

社会的な責任や信頼の損失

製薬企業のリストラは、社会的な責任や信頼の損失を招く可能性があります。製薬企業は、医療や社会に貢献することを使命としています。しかし、リストラによって、製薬企業は、その使命に背くことがあります。例えば、リストラによって、以下のような問題が発生することがあります。

– 医療機関や患者のニーズに応えられない

– 医療従事者や学術界との連携や協力が減少する

– 医療や社会に貢献する医薬品やプログラムの開発や提供が減少する

これらの問題は、製薬企業の社会的な責任や信頼を損なうことがあります。特に、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で、製薬企業は、社会から高い期待や信頼を寄せられています。そのような状況で、製薬企業がリストラを行うことは、社会からの批判や不信を招くことがあります。また、リストラによって、製薬企業の社会的な責任や信頼が低下することは、製薬企業のブランドイメージや評判にも悪影響を与えることがあります。

以上のように、製薬企業のリストラは、人員やコストの削減によって、経営の効率化や収益性の向上を目指していますが、人材の流出やモチベーションの低下、研究開発や営業の能力の低下、社会的な責任や信頼の損失といった問題やリスクも伴っています。そのため、製薬企業は、リストラを行う際には、その効果と実態を十分に検討し、バランスの取れた判断をすることが必要です。また、リストラを行った後には、人材のケアや教育、研究開発や営業の強化、社会的な貢献やコミュニケーションなど、リストラの影響を最小限に抑えるための対策を講じることが必要です。

まとめ

この記事では、製薬企業のリストラの効果とその実態について、最新の事例やデータをもとに分析しました。製薬企業のリストラは、国内市場の停滞や薬価制度の改革、新型コロナウイルス感染症の影響といった背景に基づいて行われていますが、人材の流出やモチベーションの低下、研究開発や営業の能力の低下、社会的な責任や信頼の損失といった問題やリスクも伴っています。そのため、製薬企業は、リストラを行う際には、その効果と実態を十分に検討し、バランスの取れた判断をすることが必要です。また、リストラを行った後には、人材のケアや教育、研究開発や営業の強化、社会的な貢献やコミュニケーションなど、リストラの影響を最小限に抑えるための対策を講じることが必要です。

製薬企業のリストラは、製薬業界や医療や社会に大きな影響を与える重要なテーマです。今後も、このテーマに関する最新の情報や動向を追っていきたいと思います。ご覧いただきありがとうございました。

最後までお読みいただいてありがとうございました。
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