製薬企業のリストラの歴史とその背景

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製薬企業は、医薬品の開発と販売を行う企業です。製薬業界は、高い研究開発費用、厳しい規制、激しい競争、特許の切れなどの課題に直面しています。これらの課題に対応するために、製薬企業は様々な経営戦略を採用してきました。その中の一つが、リストラです。

リストラとは、企業が経営効率や収益性を向上させるために、人員削減や事業再編などの構造改革を行うことです。製薬企業のリストラの歴史は、以下のように大きく分けることができます。

1990年代:グローバル化と合併の時代

1990年代は、製薬業界にとってグローバル化と合併の時代でした。この時期には、以下のような動きが見られました。

グローバル化

製薬企業は、新興市場への進出や海外の研究所や工場の設立など、グローバルな展開を強化しました。これは、国内市場の成熟や規制の強化などの理由から、海外市場の需要や成長機会を求めたためです。

合併

製薬企業は、規模の拡大や研究開発力の強化、パイプラインの充実などの目的で、他の製薬企業やバイオテクノロジー企業との合併や買収を行いました。この時期には、グラクソ・スミスクライン、ノバルティス、サノフィ・アベンティスなどの巨大な製薬企業が誕生しました。


これらの動きに伴って、製薬企業はリストラを行いました。リストラの主な理由は、以下のようなものでした。

コスト削減

製薬企業は、グローバル化や合併によって増加した経費や負債を削減するために、人員削減や施設の閉鎖などのコスト削減策を実施しました。例えば、1999年に合併したグラクソ・スミスクラインは、2001年までに約2万人の従業員を削減しました。

事業再編

製薬企業は、グローバル化や合併によって多様化した事業ポートフォリオを再編するために、非主力事業の売却や撤退などの事業再編策を実施しました。例えば、1996年に合併したノバルティスは、2000年に食品や化粧品などの消費財事業を分離しました。

2000年代:特許の切れと後発医薬品の台頭

2000年代は、製薬業界にとって特許の切れと後発医薬品の台頭の時代でした。この時期には、以下のような動きが見られました。

特許切れ

製薬企業は、1990年代に開発した大ヒット医薬品の特許が相次いで切れるという状況に直面しました。特許が切れると、製薬企業はその医薬品の独占的な販売権を失い、売上や利益が大幅に減少するリスクがあります。この現象は、特許の崖と呼ばれました。

後発医薬品の台頭

製薬企業は、特許が切れた医薬品に対して、同じ有効成分や効果を持つが価格が安い後発医薬品が市場に出現するという競争に直面しました。後発医薬品は、特に新興国や開発途上国で需要が高く、製薬企業の市場シェアや収益を奪う脅威となりました。


これらの動きに伴って、製薬企業はリストラを行いました。リストラの主な理由は、以下のようなものでした。

収益の確保

製薬企業は、特許の切れや後発医薬品の台頭によって減少した収益を確保するために、人員削減や施設の閉鎖などの収益改善策を実施しました。例えば、2009年に特許が切れた抗うつ剤プロザックのメーカーであるエリ・リリーは、2011年までに約5,500人の従業員を削減しました。

イノベーションの促進

製薬企業は、特許の切れや後発医薬品の台頭に対抗するために、新たな医薬品の開発やイノベーションを促進するために、研究開発部門の再編や外部との連携などのイノベーション促進策を実施しました。例えば、2006年に特許が切れた胃潰瘍治療薬ネキシウムのメーカーであるアストラゼネカは、2010年に研究開発部門を3つのセンターに分割し、各センターに自律性と責任を与えました。

2010年代:パーソナライズドメディシンとデジタルヘルスの時代

2010年代は、製薬業界にとってパーソナライズドメディシンとデジタルヘルスの時代でした。この時期には、以下のような動きが見られました。

パーソナライズドメディシン

製薬企業は、個人の遺伝子や生体情報などをもとに、最適な医薬品や治療法を提供するパーソナライズドメディシンに注力しました。これは、一般的な医薬品や治療法では効果が低いか副作用が高いという問題に対処するためです。例えば、2017年に米国で承認されたがん治療薬キイトルーダは、がん細胞の特定の遺伝子変異に応じて効果が変わるため、患者の遺伝子検査を行ってから処方されます。

デジタルヘルス

製薬企業は、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどのデジタル技術を活用して、医薬品の開発や販売、服用管理などを行うデジタルヘルスに取り組みました。これは、医療の質や効率を向上させるとともに、医薬品の付加価値を高めるためです。例えば、2018年に米国で承認された統合失調症治療薬アビリファイ・マイサイトは、錠剤に埋め込まれたセンサーが服用状況をスマートフォンに送信する機能を持ちます。


これらの動きに伴って、製薬企業はリストラを行いました。リストラの主な理由は、以下のようなものでした。

戦略の転換

製薬企業は、パーソナライズドメディシンやデジタルヘルスに対応するために、従来の量産型や一般向けの医薬品から、高付加価値や特定の患者層向けの医薬品へと戦略を転換しました。このために、製薬企業は、事業の集中化や専門化を図るために、人員削減や事業の売却や撤退などの戦略転換策を実施しました。例えば、2019年にパーソナライズドメディシンに注力することを発表したロッシュは、2020年までに約1,200人の従業員を削減しました。

技術の革新

製薬企業は、パーソナライズドメディシンやデジタルヘルスに対応するために、人工知能やビッグデータなどの先端技術を活用することで、医薬品の開発や販売、服用管理などを革新しました。このために、製薬企業は、技術の導入や更新を促進するために、人員の再配置や教育、外部との提携などの技術革新策を実施しました。例えば、2017年にデジタルヘルスに注力することを発表したノバルティスは、2020年までに約2,000人の従業員を再配置しました。

まとめ

製薬企業のリストラの歴史は、製薬業界の変化に対応するための経営戦略の変遷を示しています。製薬企業は、グローバル化や合併、特許の切れや後発医薬品、パーソナライズドメディシンやデジタルヘルスなどの課題や機会に応じて、リストラの理由や方法を変えてきました。製薬企業のリストラは、コスト削減や事業再編、収益の確保やイノベーションの促進、戦略の転換や技術の革新などの目的で行われました。製薬企業のリストラは、製薬業界の発展に貢献するとともに、社会や個人にも影響を与える重要な経営判断であると言えます。



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