POINT:
- 中国企業の世界シェアは約30%(米国に次ぐ第2位)
- ライセンスアウト件数急増で、海外展開が加速中
- 肥満、がん、心血管、中枢神経など多領域で画期的候補が登場
1. はじめに:なぜ今、中国製薬企業なのか?
- 政府支援の拡充
・研究開発補助金・税制優遇の強化
・国家重点研究課題として創薬イニシアティブを展開 - 臨床試験ネットワークの拡大
・速やかな試験開始・被検者募集
・データの質向上による信頼性強化 - グローバル連携の深化
・米欧製薬大手が競って中国企業とライセンス契約
・低コスト・高効率で有望資産を獲得
2. 市場規模と提携動向の概況
指標 | 2024年前年同期 | 2025年上半期(予測) |
---|---|---|
米製薬大手との契約件数 | 2件 | 14件 |
ライセンス総額(億ドル) | 約30 | 約183 |
中国発パイプラインの世界シェア | 約25% | 約30% |
主な対象疾患 | がん、感染症 | 肥満、心血管、中枢神経など多領域 |
3. 注目企業と開発パイプライン一覧
開発企業 | 候補名 | 適応疾患・標的領域 | 開発フェーズ | 提携先・ライセンス権 |
---|---|---|---|---|
三生(3SBio) | SSGJ-707 | 非小細胞肺がん、転移性大腸がんなど | 中国:第Ⅰ/Ⅱ相 米FDA IND受理 | ファイザー 前払1.25億USD、最大60億USD |
恒瑞医薬(Hengrui) | HRS-5346 | 高コレステロール血症(心血管疾患) | 中国:第Ⅱ相 | メルク 前払2億USD、最大17.7億USD |
Sciwind Biosciences | エクノグルタイド〈Ecnoglutide〉 | 肥満・体重減少(GLP-1作動薬) | 第Ⅲ相試験 | 独自開発(市場参入準備) |
韓生生物(Hansoh) | HS-10535 | 肥満(経口GLP-1作動薬) | 前臨床(動物実験) | メルク 前払1.12億USD、最大19億USD |
百済神州(BeiGene) | ブルキンザ〈BTK阻害薬〉 | B細胞悪性腫瘍 | 承認済(米FDA、欧EMA) | 自社展開 |
陕科生物(SPH) | ハイイータン〈MET阻害薬〉 | がん・腫瘍治療 | 第Ⅱ相 | アストラゼネカ(ライセンス取得) |
4. 個別新薬候補の詳細解説
4.1 SSGJ-707(3SBio)
- 適応疾患:非小細胞肺がん、転移性大腸がん、婦人科腫瘍
- 開発状況:
- 中国国内で第Ⅰ/Ⅱ相試験複数実施中
- 米FDAへIND申請が受理され、グローバル第Ⅰ相が開始
- 提携概要:
- ファイザーが中国除く全世界における独占ライセンス権を取得
- 前払金1.25億USD、マイルストーン最大60億USD
- 注目ポイント:
- 同クラス薬に比べ耐性メカニズムを回避する設計
- 高い腫瘍抑制率を動物モデルで確認済
4.2 HRS-5346(恒瑞医薬)
- 適応疾患:高コレステロール血症(心血管疾患)
- 開発状況:第Ⅱ相試験中。経口投与でLDLコレステロールを30〜50%低下
- 提携概要:メルクが中国以外での開発・製造・販売権を取得
前払金2億USD、マイルストーン最大17.7億USD - 注目ポイント:
- 既存PCSK9阻害薬に劣らないLDL低下効果
- 飲み薬である点が患者利便性を大幅に向上
4.3 エクノグルタイド〈Ecnoglutide〉(Sciwind)
- 適応疾患:肥満・体重管理(GLP-1受容体作動薬)
- 開発状況:第Ⅲ相試験
48週間投与で平均体重減少率10〜15%を達成(Lancet掲載) - 提携状況:現時点では独自開発中
- 注目ポイント:
- 週1回皮下注射、高い有効性と安全性を両立
- 米国のWegovyに匹敵する商用ポテンシャル
4.4 HS-10535(Hansoh)
- 適応疾患:肥満(経口GLP-1作動薬)
- 開発状況:前臨床段階(動物モデルで体重20%超減)
- 提携概要:メルクが独占ライセンス権を獲得
前払金1.12億USD、マイルストーン最大19億USD - 注目ポイント:
- 経口投与でGLP-1作動薬の効果を模倣
- 将来の注射薬代替品として期待
5. グローバル連携・ライセンス事例
年月 | 提携企業 | 中国企業(開発元) | 候補薬 | 契約規模 |
---|---|---|---|---|
2025年5月 | ファイザー | 三生製薬(3SBio) | SSGJ-707 | 前払1.25億USD/最大60億USD |
2025年5月 | メルク | 恒瑞医薬(Hengrui) | HRS-5346 | 前払2億USD/最大17.7億USD |
2024年12月 | メルク | 韓生生物(Hansoh) | HS-10535 | 前払1.12億USD/最大19億USD |
2025年6月 | アストラゼネカ | 石薬集団(CSPC) | AI創薬研究、心血管候補 | 最大約72.2億USD(研究・ライセンス合計) |
6. 疾患領域別トレンド
- がん治療:BTK阻害薬、MET阻害薬、PD-1/PD-L1抗体など多様化
- 代謝性疾患:GLP-1作動薬(注射・経口)、新規脂質代謝調節薬
- 心血管:経口LDL低下薬、抗血栓薬候補
- 中枢神経:アルツハイマー病、パーキンソン病向け抗体/低分子薬の研究活発化
7. 今後の展望と戦略的示唆
- 中国企業との早期連携が鍵
- 初期候補から共同開発・ライセンス検討
- CRO/臨床試験施設活用でコスト最適化
- 多国間パートナーシップの構築
- 欧州や日本の規制当局向けデータ準備
- 複数企業との連合ライセンスでリスク分散
- AI創薬・デジタル技術との融合
- AIに裏打ちされたターゲット探索
- 臨床データ解析の迅速化・精度向上
- バイオシミラーからイノベーターへ
- 従来のバイオシミラー開発実績を活かし、独自イノベーションへシフト
8. まとめ
中国製薬企業は公的支援の強化と臨床基盤拡充を背景に、世界市場でのプレゼンスを急速に高めています。2025年上半期のライセンス総額約183億USD、契約件数14件という実績はその象徴です。今後も、以下のポイントに注目して戦略的な連携を進めることが、製薬企業のグローバル競争力強化に直結するでしょう。
- 開発初期段階からの情報収集・評価
- 多領域候補薬(がん・代謝・中枢神経など)の選別
- グローバル承認戦略の練り直し
- AI/デジタル技術との連携強化
これらを踏まえ、中国企業の新薬パイプラインを自社のイノベーション戦略にどう組み込むかが、今後の鍵となります。引き続き、最新動向をウォッチしながら、パートナー探索・共同開発の機会を積極的に模索してまいりましょう。
参考文献
- ロイター通信「中国企業、新薬候補のライセンス契約急増」2025年6月21日https://jp.reuters.com/markets/global-markets/2HYNZWQ6GZJ3RAPPH676ERSJ44-2025-06-21/
- 各社プレスリリース(3SBio、Hengrui、Hansoh、Sciwindなど)
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