2025年、医薬品卸業界はかつてない構造転換期を迎えています。物流コストの急増(燃料費・人件費高騰)、スペシャリティ医薬品の需要増、製薬企業の営業体制見直し、そして公正取引委員会による接待・飲食ルールの見直しといった複合的要因が、各社の経営戦略に大きな影響を与えています。
本記事では、主要6社(メディパルHD/アルフレッサHD/スズケン/東邦HD/バイタルKSKHD/ほくやく・竹山HD)の2025年3月期決算を、これまでに調査したレポート内容をふんだんに引用して詳細に解説します。さらに、2026年3月期以降の将来展望を踏まえ、製薬企業や卸関係者の皆様に向けた実務的な示唆を示します。
🔍 【引用】2025年3月期 医薬品卸6社 合計決算概況
「主要6社(メディパルHD、アルフレッサHD、スズケン、東邦HD、バイタルケーエスケーHD、ほくやく・竹山HD)はすべて増収を達成し、営業利益も前期比6.7%増となりました。業界全体の営業利益率は1.38%で、前期の1.33%からわずかに上昇しています。スペシャリティ医薬品の需要増が、薬価改定や物流コスト増加の影響をカバーしました。」
― AnswersNews レポートより引用 ―
この一文が示すとおり、スペシャリティ医薬品の流通強化が2025年3月期における増益の大きな原動力となりました。
📊 6社の決算ハイライト(2025年3月期)
企業名 | 売上高(億円) | 営業利益(億円) | 営業 利益率 | 増減率(営業利益) | 主な要因(引用) |
---|---|---|---|---|---|
メディパルHD | 36,713 | 556 | 1.52% | +17.5% | 「売上高3兆6,713億円、(前期比+3.2%)、営業利益556億円(+17.5%増)で過去最高を更新。医薬品と検体集荷を同時に行う『シェアリング・ロジスティクス』の導入が進み、約500軒の医療機関で採用されています。」 |
アルフレッサHD | 29,611 | 381 | 1.29% | -1.0% | 「売上高2兆9,611億円(+3.6%)、営業利益381億円(▲1.0%)。医薬品卸売事業は堅調でしたが、製造事業や調剤薬局事業のマイナスが影響しました。」 |
スズケン | 23,999 | 371 | 1.55% | +6.4% | 「売上高2兆3,999億円(+0.6%)、営業利益371億円(+6.4%)で営業利益率は1.55%と業界トップ。スペシャリティ医薬品の流通受託事業が拡大し、品目数は70品目に達しました。」 |
東邦HD | 15,185 | 189 | 1.24% | -2.0% | 「売上高1兆5,185億円(+2.8%)、営業利益189億円(▲2.0%)。仕入原価の高騰や販管費の増加が影響しました。」 |
バイタルKSKHD | 6,003 | 57 | 0.95% | +2.7% | 「売上高6,003億円(+2.2%)、営業利益57億円(+2.7%)。」 |
ほくやく・竹山HD | 2,895 | 29 | 1.00% | +3.5% | 「売上高2,895億円(+5.1%)、営業利益29億円(+3.5%)。物流拠点の自動化によるコスト削減が寄与しました。」 |
📈 各社の注力分野と戦略比較
各社は以下のように差別化戦略を展開しています。
企業名 | 主な戦略領域 | 特徴・コメント |
---|---|---|
メディパルHD | シェアリングロジ、スペシャリティ流通 | 高度物流網とデジタル物流の融合を推進。採血・検体集荷との一体運用が特徴。 |
アルフレッサHD | 地域包括ケア・在宅医療 | ドラッグストア・調剤の製造小売まで視野に。BtoC型の成長領域に注力。 |
スズケン | スペシャリティ医薬品流通・製販一体 | 製薬機能も併せ持つ業態。サプライチェーン全体での価値提供を志向。 |
東邦HD | 病院マーケット強化・物流効率化 | 固定費の高騰課題を抱えつつ、既存得意先中心の安定戦略を継続。 |
バイタルKSKHD | 地域密着・物流合理化 | コスト管理を徹底しつつ、物流効率の見直しに取り組む。 |
ほくやく・竹山HD | 道内基盤の安定維持 | ニッチ市場でのシェア維持と低コスト経営が特色。 |
📌 注目すべき外部要因とリスク
- 薬価改定(2024年・2026年):中間年の再改定と2026年本改定が収益に影響
- 物流費の高止まり:2024年問題によるドライバー不足、燃料費高騰が継続
- 医療機関の統廃合:地域医療構想による再編が卸の商圏にも影響
- 医薬品供給不安:安定供給対策としてリスクヘッジ在庫が必要となり、在庫回転率に影響
🔮 2026年以降の展望と再編シナリオ
業界では以下のような再編・戦略的転換が想定されています。
- 物流拠点統廃合:中堅卸の物流共同化が加速。東邦×スズケンの連携など。
- スペシャリティ卸の専門子会社化:各社が高額薬流通に特化した事業体制に移行。
- 営業体制のBPO化・共同訪問:製薬企業との協業でMR機能の一部を卸が担う形態も拡大。
- メーカーとの資本提携の深化:特定メーカー専属の販売体制など、垂直統合も視野。
💡 製薬企業にとっての示唆
今後、製薬企業が医薬品卸とどう関係性を構築するかが、
- スペシャリティ品の適正流通
- 安定供給
- 営業戦略の最適化
に直結します。
「流通の効率性」×「情報の可視化」×「パートナーとしての信頼性」を兼ね備えた卸との連携が今後の鍵です。
再編の波に呑まれないためにも、各卸の動きをタイムリーに把握し、自社戦略との整合を取っていくことが求められます。
🔚 まとめ
2025年の医薬品卸業界は、安定と成長を両立させる挑戦の年でした。物流コストや薬価制度といった外部環境の制約の中で、各社はスペシャリティ医薬品やデジタル物流を武器に、新たな付加価値を模索しています。
2026年以降、さらなる再編の波が予想される中、製薬企業にとっても「誰とどう組むか」が勝負の分かれ目となるでしょう。
引き続き、各社の決算や中計、事業戦略をウォッチしつつ、卸をただの「流通業者」として見るのではなく、共同戦略パートナーとしての位置づけを明確にする時代が来ています。
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