はじめに:国内事業再構築の喫緊性
住友ファーマは2024年度決算で北米製品や事業売却の寄与により最終黒字化を果たしましたが、国内コアセグメント利益は34%減の75億円に落ち込みました。国内売上の空洞化が進む中、国内事業立て直しの鍵を握るのが「販売提携拡大」です。本記事では、提携拡大の狙いと今後の展望を、中期経営計画「Reboot 2027」との整合性を踏まえつつ詳述します。
Ⅰ. 国内事業の現状と課題
1. 業績ハイライト
会計年度 | 国内コア利益 | 前期比増減率 | 最終利益 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|
2023年3月期 | 114億円 | — | △150億円 | 北米依存・国内苦戦 |
2024年3月期 | 75億円(見込) | △34% | +236億円 | 事業売却・北米製品牽引で黒字化 |
- 国内コア利益は34%減と構造的悪化が鮮明化
- 最終利益は236億円を確保も、背景は国内外の偏在
2. ドメイン別ポートフォリオ脆弱性
領域 | 主力品目 | 特許満了時期 | 状況 |
---|---|---|---|
糖尿病治療 | エクア、エクメット | 2022~2024年 | 売上ピークアウト → ジェネリック攻勢で減少 |
中枢神経領域 | リスパダールLA他 | 2020年 | ジェネリック参入でシェア急落 |
抗がん剤・再生医療 | ミドル~後期開発パイプライン | ― | 開発後期品少数 → 承認後の販売リソース不足 |
特許切れによる売上喪失が継続し、MRモチベーション低下にも直結。R&Dパイプラインと販売リソースの間に時間的ギャップが存在しています。
Ⅱ. 販売提携拡大の具体施策
住友ファーマが国内立て直しの要と位置づける「販売提携拡大」は、大きく3つの領域で展開中です。
Ⅱ‑1. 中枢神経領域:ゼプリオン/ゼプリオンTRI(Co‑promotion)
- 提携先:ヤンセンファーマ(Johnson & Johnson)
- 契約締結日:2025年1月20日
- 開始時期:2025年2月より共同プロモーション開始
- 概要:
- ヤンセンが製造・販売承認を保持する統合失調症治療薬「ゼプリオン®/ゼプリオンTRI®」について、住友ファーマが共同で学術・情報提供を担当
- 将来的にヤンセンからの供給を受け、住友ファーマが流通も担う計画
- 狙い:
- ヤンセンの製造・供給力と
住友ファーマの情報提供力・MRネットワークの相乗効果 - 小規模病院・クリニックへのリーチ強化による患者層の拡大
- 精神神経領域での製品ラインアップ拡充によるMRモチベーション向上
- ヤンセンの製造・供給力と
Ⅱ‑2. 糖尿病領域:オゼンピック®皮下注2mg(Co‑promotion)
- 提携先:ノボ ノルディスク ファーマ
- 開始時期:2025年7月~
- 内容:
- 週1回投与のGLP‑1受容体作動薬「オゼンピック皮下注2mg」の国内情報提供と患者支援プログラムを住友ファーマが担当
- ノボは製販承認および⽣産・供給体制を保持
- 狙い:
- ノボの製販基盤×住友ファーマの顧客接点力によるシナジー創出
- 患者フォロー強化で服薬アドヒアランス向上
- MRの新しい価値提案機会によるブランド強化
Ⅱ‑3. がん・再生医療領域:今後の提携検討フェーズ
- 背景:中期経営計画「Reboot 2027」で「再生・細胞およびがん領域品目の事業化」を掲げる
- 戦略イメージ:
- 小規模臨床フェーズで価値確認後、専門ベンチャー/大手製薬との共同展開
- 臨床データを活用した学術プロモーションは住友ファーマ主導
- パートナー承認・供給体制を活かし、上市リードタイムを短縮
Ⅲ. 提携戦略の意義とメリット
1. 販売リソースの最適化
- 固定費→変動費化:提携品目ごとに必要リソースを変動費化し、市場環境に応じた柔軟な配分
- MR集中配備:自社強み領域へMRを重点配備し、非コア品目は提携先連携でカバー
2. 自社強みの明確化
機能 | 住友ファーマ(自社) | 提携先企業 |
---|---|---|
情報提供・学術活動 | ◎ | △ |
製造・供給 | △ | ◎ |
MRネットワーク・市場開拓 | ◎ | △ |
承認・規制対応支援 | ○ | ◎ |
表1. 提携先との機能分担イメージ
住友ファーマは顧客接点とエビデンス構築に特化し、提携先は製販・開発インフラを提供します。
3. ブランド力の補完・強化
- Co‑promotion品目を通じて、MRが新規価値提案を実践
- 住友ファーマの信頼感と提携ブランドの製剤力が双方向に強化
Ⅳ. 「Reboot 2027」との整合性
中計「Reboot 2027」の3大柱:
- 価値創造サイクル再構築
- 提携活用による早期価値最大化
- 集中と選択
販売提携拡大は特に2. 提携活用による早期価値最大化を体現。小規模臨床後、提携先と迅速に上市・マーケット投入し、cash‐inを前倒しすることでR&D投資原資を安定確保します。
Ⅴ. 今後の展望と課題
1. 提携パイプラインの拡充シナリオ
フェーズ | 主な施策 | KPI例 |
---|---|---|
短期 | ゼプリオン/オゼンピックのシェア拡大 | 国内売上前年比+10% MR訪問件数+15% |
中期 | 再生医療・がん領域で新規Co‑promotion案件2件獲得 | 提携品目比率20%到達 |
長期 | アジア地域横展開 | 海外売上構成比10%達成 |
2. リスクと対応策
リスク項目 | 内容 | 対応策 |
---|---|---|
パートナー選定の難航 | 他社も同様戦略を推進&候補企業多数で選別困難 | 事業シナジー重視のデューデリジェンス強化 |
コミュニケーションコスト増大 | 品目ごとに複数ベンダーと共同→調整会議多数 | 横串プロジェクトチーム設置&共通KPI設定で一元化 |
短期収益依存による長期投資圧迫 | 提携収益に頼り過ぎ→R&D投資余力減少 | 提携収益一部をR&Dリザーブ化&投資比率ルール化 |
MR評価指標と組織文化の不整合 | 提携品目急増→評価基準の複雑化でMRモチベ低下 | 共通評価フレームワーク構築&共同トレーニング実施 |
3. MRモチベーション向上施策
- 共同研修プログラム:提携品目別の学術・営業トレーニングを実施
- 評価指標の明確化:売上だけでなく学術活動・患者支援成果をKPI化
- 社内ワークショップ:フィールド⇔本社間コミュニケーション強化
おわりに
住友ファーマの「販売提携拡大」は、単なる売上補完策ではなく、自社強みの研ぎ澄ましと提携先リソースのフル活用を両立させる新時代のビジネスモデルです。短期的にはゼプリオン/オゼンピックの立ち上げで一定成果が見込まれ、中長期的には再生医療・がん領域への提携拡大で成長ドライバーを増強します。
製薬企業関係者の皆様には、本記事を自社提携モデル検討のヒントとして、今後の提携戦略立案にお役立ていただければ幸いです。今後の住友ファーマの動きをウォッチするとともに、各社における最適解を模索してまいりましょう。
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