【事例解説】第一三共が切り拓くジョブ型人材マネジメント×報酬改革の全貌

製薬企業

はじめに:なぜ今、ジョブ型なのか?

グローバル市場での競争激化、デジタルシフト、人的資本経営──。製薬業界を取り巻く環境は日々変化し、従来の「年功序列」「終身雇用」モデルは限界を迎えています。
「自社の人事制度は、本当にグローバル競争に耐えうるか?」
この問いを突きつける形で、第一三共は2025年5月、新たなジョブ型人材マネジメント&報酬制度を発表しました。本稿では、同社の制度改革を徹底解剖し、他社との比較から“成功のポイント”を探ります。

1. 第一三共の新制度:3つの“柱”で見る全体像

  • 等級・評価制度の改定
    • 年功廃止 → 職務価値に基づく等級
    • 年2回の「目標設定+振り返り」を全社員に適用
    • ストレッチ目標の挑戦度合いを定性評価に反映
  • 報酬テーブル&賞与制度の再設計
    • 賞与 → 年1回化で成果を集約評価
    • ベース給与レンジ見直し
      30代幹部:平均年収+40%
      新卒初任給:約10万円アップ
  • LTI(長期インセンティブ)の導入
    • ミドル~シニア層向けに信託型株式付与
    • 中長期的な企業価値向上へコミット

POINT:3本柱の組み合わせで、「短期的成果」「長期的成果」「職務価値」のすべてに報酬が連動。

2. 制度導入の背景と経営戦略とのつながり

  • グローバル展開の加速
    抗体薬「エンハーツ」などオンコロジー領域でのグローバル拡大。海外報酬水準とのギャップ解消。
  • 2030年ビジョン実現への基盤強化
    人的資本経営を戦略の核に据え、自律的キャリア形成を促進。
  • アカウンタブル・マインドセットの醸成
    社員一人ひとりが「自分の仕事に責任を持つ」カルチャー。意思決定のスピードと質を高める。

問いかけ:あなたの組織では、どの程度「説明責任」を果たす文化が根付いていますか?

3. 管理職 vs 一般職:制度がもたらす変化

対象変更前変更後ポイント
管理職職責曖昧/年功重視職務定義明確化+成果連動報酬責任範囲に応じた報酬設計で、リーダーシップを可視化
一般職年功昇格/異動は人事主導公募型のジョブポスティング&自己申告昇格自分でキャリアを選び取る自律性が発揮可能

ここがポイント:年齢・勤続に依存しない昇給・昇格で、特に若手・中堅に大きな成長機会を提供。

4. 他社比較:国内大手製薬のジョブ型・報酬改革

企業導入時期・対象特徴
第一三共2025年度~(全社)等級・報酬テーブル再設計、賞与年1回化、LTI導入
武田薬品工業2021~(一部部門)アジャイルプログラムで幹部候補を公募型育成
アステラス製薬2021~(部長級~)グローバル統一等級・全社業績連動賞与
中外製薬2025年1月~(全社)ジョブポスティング全社展開、年齢制限撤廃
大日本住友製薬数年前~(全社)PC職創設で成果重視キャリアパスを多元化

比較のポイント
・対象範囲(部門限定 vs 全社)
・公募制の有無
・賞与・長期インセンティブの取り入れ方

おわりに:次の一手へ

ジョブ型導入はゴールではなくスタートです。第一三共のように「ハイブリッド型」で導入しつつ、運用フェーズで得られる社内の声をフィードバックし、継続的にブラッシュアップしていくことが真の成功につながります

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